無理矢理な初めては、ドSな幼馴染みだった。

あの時の甘酸っぱいキスは今も健在でした。

-頭が真っ白になった。


どういうこと…なのか、私の頭は理解できず、思考がフリーズしてしまったようだ。

それは目の前にいる幼馴染みことショタ…いや、紺野 成之[コンノ シゲユキ]も同じなようだった。


やがて私の頭が正常に動いてくると、ゆっくりとこの現状を把握しだした。

目の前にいるのは、間違いなく成之だ。

他の男達は、いかにも「ホストです☆」という格好をしているのに比べ、彼は全くそんな雰囲気も見せない、カーキ色のパーカーに七分丈のズボンと、いかにも普通の格好をしている。

せめて何日かお付き合い(?)を進めた後、

「あなた…まさか成之?」

というかんじで、どこかで見た少女漫画のようなシチュエーションで本性を現してほしかったところだが…。

昔から着ていた、妙に見覚えのある服で来られてもただただ反応に困るだけだ。


向かい合って三分程たっただろうか。

隣のカップルはもう隣の部屋に用意してあるベッドへ向かおうとしているのに、目の前にいる成之は先ほどから一向に動かない。

それどころか、一見死んでいる?と思わせてしまうほど顔色が悪い。


彼が言っていた自称可愛い系とは、一体なんだったのだろうか…。



と、ようやく成之が重々しく口を開いた。


「あ、あれ、あいちゃんってここで働いてたんだね~…」


そう言った成之は冷静を装っているのだろうが、目はかなり泳いでいる。

…彼が上京したのは確か私が市内の平凡な大学に受かった時だったかな。

故郷を出るときに、その時はまだ純粋だった私にいきなり告白、そして口づけをした後、東大ボーイとして旅立っていった。


…あの唇はとっても柔らかくて、昔の私は虜になってしまったのだった。

キャバ嬢になったのもそれが理由だ。
もう一度あの感触を感じたくて、就職してみたが、常連のおじさんの唇はガサガサで、柔らかいどころではなかった。

その次に、男性のチョイスが根本的に間違っていたと思い直し、今度は若い男ともキスをしてみた。が、あの甘酸っぱい味はしなく、残ったのは男が直前に食べていた塩辛の味だけだった。


それからあの味はもうあきらめていたが…。
奇跡が起こった、とでもいえばいいのだろうか。

目の前に今、あの素晴らしいキスをしてきた相手がいる。



…やばい、キスしたい。

一度発情した人間のメスの理性は、たとえマッチョな男に取り押さえられたとしてもすぐには直らないだろう。

それどころか、今度は取り押さえようとしてきたマッチョの肉体にさらに発情してしまうことだってあるかもしれない。


…とまぁとにかく、女は一度スイッチが入ると、なかなかブレーキをかけることはできないということだ。

私は迷わず固まっている成之の肩を抱き、成之の唇に自分の唇を重ね合わせた。

-今度のキスは長くしよう。
そう前から決意していた私には、もうすでにディープキスへの嫌悪感などなかった。

もしHIVに成之が感染してたら。

そうだったら本当にヤバイ、と頭の中では理解している。
だが、もう自分で自分を止められない。

途中で成之が「ん…ぷっ、はぁっ…」と、唇を離して呼吸をしようとしていたが、私はそんなのおかまいなしに、さらに肩を強く抱き、濃厚なキスに酔いしれた。

しばらくして唇を離すと、そこには先程とは違う、潤んだ瞳……オンナの顔をした成之がいた。


こんな顔を見せつけられたら、もうベッドに押し倒さずにはいられない。

私は成之をお姫様だっこのような形で抱え、走って隣の部屋にあるベッドまで向かった。
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