さよならの準備




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はぁ、と息を吐く。

なにもしていなくても汗が頬を伝うような、暑い夏の夜。



あたしたち弓道部は夏合宿中。

今は練習を終えたあとのお風呂上がり。



「梨沙、言わなくてよかったの?」



乾かしたばかりの熱を含んだ髪を揺らしながら、部員のひとりが部屋に戻りがてらあたしの様子をうかがってくる。



みんなして揃いのジャージ姿のはずなのに、あたし以外のみんなは細かなところに気を遣っていてお洒落。

なんでそんなに可愛くなれるんだろう。



「言わなくてよかったのって、なにを」

「そんなの決まってるじゃん!
あんたがアッキーのこと好きってこと」

「ばっか、なに言ってんの⁈」



周りをきょろきょろと見回す。

……よし、特に誰もいなさそう。



なんて言ってもあたしの気持ちに気づいていないのは、おそらくアッキー本人のみ。

男子には特に言われたことはないけど、ばれていないとは思えない。

この微妙な気遣いがありがたくも、気まずいんだ。



そんな男子と違い、ぐいぐい突っ込んでくる彼女が話題にあげているのは、今日の昼間。

放課後の練習メニューと違う筋トレをしたり、ランニングをしたあとの休憩時間のこと。






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