冬に響くセレナーデ
ドイツ・ロマン派を代表する名作のヴァイオリン協奏曲。哀愁を帯びたメロディーとロマン情緒漂う形式は美しく、気品に満ちている。

メンデルスゾーンが亡くなる3年前に完成したこの曲は、構想に6年も費やしたそうだ。

美しくドラマティックな主題を奏でるヴァイオリン。その旋律を再現するオーケストラ。そして新しい主題の提示。紡がれる音ー。
融合する、それぞれの楽器から発せられる音楽。

しかし、実際の演奏は、私たちの知っているものとは違った。

「今日の演奏は軽い感じでしたね。」

「そうだね、僕のほうが上手く弾けるよ。」

「今度、聴かせて下さい。」

「いいよ、じゃあ、月曜日にね!」

「ふふふ!楽しみ!」

「クラシックって難しいよね。表現を少し変えただけで、全く違う音楽に聴こえるー。今日のソリストは何故、あんなにフワフワした演奏をしたんだろう?僕だったら、メンデルスゾーンの音楽や時代背景や人生を考えて…。ごめん、つまらないでしょう?」

「いいえ、メンデルスゾーンの音楽って?」

「控えめながら、洗練された感情が、盛り込まれているんだ。新しい手法を試したり、旅をしたりー。ヨーロッパの様々な都市を訪ね、音楽家や画家と会っているんだ。ショパンやリストやベルリオーズとも交流があってね。」

「同じ年代ですものね。」

「そう、文豪ゲーテとも会ったりね。」

「ゲーテ?もっと昔の人かと思っていました。」

「ははは!まあ、メンデルスゾーンがまだ小さい時に、ゲーテはおじいちゃんだったけどね。」

「芸術って繋がっているんですね。」

「そう、他にも、17歳の時に作曲した『真夏の夜の夢』の序曲はシェイクスピアの戯曲を題材としてるんだよ。」

「17歳ー。」

「彼は神童でね、家も裕福だったから、知識人やその仲間たちと交流があってね。私設の管弦楽団が組織されていたそうで、そこでよくお披露目されていたみたいだよ。」

「すごい…。」

「本当に、今では考えられないよね。彼は音楽だけではなく、多数の言語も操れて、詩や絵画にも興味を示していたそうなんだ。」

「天才なんですね。そんなふうに生まれたら、どんなに良かったか…。」

「でも、この時代は生きるのは大変だったと思うよ。彼はユダヤ系でね、言われなき迫害を受けたりもしたんだ。それが影響したかはわからないけど、気難しい性格だったようでね、神経症の悪化と過労で若くして亡くなったそうだよ。」

「知らなかったです。」

「君が言ったように、芸術は繋がっているんだ。だから、いろいろ影響し合う。自分の経験や、触れたものが形になるのが芸術だと僕は思うよ。あれ、ちょっと話しすぎたかな?」

「いいえ、勉強になりました。」

私の知らない国にニコラスはいる。もっとたくさんのことを知りたくて、ドキドキした。
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