冬に響くセレナーデ
歩いて帰って来ると、体はすっかり冷えていた。

「この暖炉、電気式だけどつけようか?」

「お願い、寒くて凍えそう!」

「本物をの暖炉だったら、マシュマロを焼けたのにね!」

「ロビーには本物の暖炉、あったよ!」

「ははは、あそこで焼くのは恥ずかしいよ。」

私たちは暖炉の前のカーペットに座り込んで、暖をとった。

「あったかい。」

ニコラスに体をもたれかける。

「うん。」

後ろから手が回ってくる。

「僕、考えたんだ。」

「何を?」

「音楽と数学の必要性。」

「覚えてたの?」

「奏美の言うことなら、なんでも覚えているよ。」

「ふふ、それで?」

「聞きたい?」

「もちろん!」

「音楽は、ゼウスの娘の女神、ミューズに由来していて、彼女はギリシャ神話では文芸と学術を司る女神なんだ。そして、数学の語源のmatheinはギリシャ語でよく考えるという意味なんだ。」

「なんだか、難しそうな話ね。」

「まあ、聞いて。音楽は神々の時代からあってね、昔から楽しまれていたんだ。古代になると、宇宙を音楽と数学で表そうとした人もいるんだ。彼は万物の原理を数において、世界を数学的、音楽的な一大調和とみてね。そのくらい学問はまだ細分化されていなかったそうなんだ。」

「ずいぶん壮大な人だね…。」

「そう。その人は古代ギリシアの数学者で哲学者でね、音階という概念を一番最初に考案した人だと言われているんだ。」

「なんていう人?」

「ピタゴラス。彼が考えたのは、ある音に対して5度を12回重ねると、元の音に近い音に戻るということ。今、一般的に考えられている、12音が揃うというわけ。」

「音階を作ったのは数学者だったの?」

「数学ができたから音楽もできた訳ではなくて、彼は世界がどのような秩序でできているか追求したかったんだろうね。学問が一体となっていたけらできた発想かもしれないよね。僕はこう思うんだ。神々が奏でた音楽(muse)を人間がよく考えて(mathein)今の学問になったんじゃないかって。ただ、後世になって、分裂して、それぞれの学問になってしまっただけで、元は1つだったんだよ。」

「よく、わからないな…。」

「ははは、全ての学問は神々に通じているんだよ。数学も天文学も音楽も。」

「その必要性は?」

「神から与えられ、人間が発展させたのだから、追求をやめてはならない、かな?」

「私は、社会についての必要性を言ってるのよ?」

「社会は秩序でできているだろう?何もかも。」

「社会は秩序なしでは崩壊するーってこと?」

「そう、だから、学校で勉強するんだよ。」

「なんだか、頭が痛くなりそう!」

「じゃあ、この話は終わり!」

温まってもなお、私たちは暖炉から離れなかった。
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