冬に響くセレナーデ
13
中学・高校の4年間は大学の4年間よりもずっと濃厚で楽しかった。
最近はミンジーたちとも連絡を取っていないし、大学で知り合った友達ともたまに話す程度だった。

「最近出会いないな。美しいものにも触れてないし…。」

それを聞いたマネージャーがすかさず言った。

「何を言っているんですか!いまは、ロンドンでの公演に集中しないと!」

「違います!そういう意味じゃないの。人との出逢いと美しいものは、音楽をつくるのよ。」

「え?」

「心が豊かな人の音楽は素晴らしいの。」

「そうなんですか?」

この人は何もわかっていない。

「芸術に触れると、音が輝きだしますよね!」

一緒に練習していた伴奏者の真紀ちゃんが頷きながら言った。

「そうですよね!」

「そうだ!ロンドンに行くついでに、美術館へ行きましょう!」

「いいですね!」

「ちょっと待って下さい、そんな暇はありませんよ!スケジュールはキツキツなんですから!」

「少しくらい融通して下さいよー。」

「そうですよー。」

「もう、若い演奏者はこれだから!」

マネージャーはブツブツ言いながら、手帳を確認していた。

「もう少し練習しましょうか?」

「そうですね!」


私はデビューしてそれなりに成功していた。
初めてのソロでの世界公演はロンドンのコンサートホールで、1カ月後に迫っていた。

「ロンドン、楽しみですね!」

真紀ちゃんはいつでも可愛らしい。

「本当ですね!」

「私も、奏美さんも、運が良かったですよね。この世界は、才能だけじゃやっていけないじゃないですか。」

「そうそう、人との出会いと運がなかったら、見出されず埋もれてしまうかもしれないものね。」

「そう考えると、人生って不思議ですよね。ここまで勉強してきて、何にもならなかったら、どうすればよかったんでしょうね。」

「何にもならないってことはないと思いますよ。演奏家になれなくても、音楽を感じる心が残っていれば、きっと役に立つはず…。」

ニコラスは見出されなかったのだろうか。私が愛したあの音は、なんだったのだろうか。時折、そう、人生の節目に彼のことを考える。今頃、何をしているのか、とか、今は授業中かな、とか…。
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