冬に響くセレナーデ
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「奏美さん、今度の日曜日に私の母校で演奏会があるんですけど、一緒に行きませんか?」

真紀ちゃんから連絡があったのは、ロンドン公演の2週間前だった。

「いいですね!曲は何をやるんですか?」

「チャイコフスキーの交響曲第1番です!」

「楽しみにしてますね!」



すごく寒い日曜日、私は真紀ちゃんの母校へ来た。

「奏美さーん!」

彼女と合流して、ホールへ入った。

「音高ってこんな感じなんだ!初めて入ったなぁ。」

「奏美さんは海外の高校出身でしたっけ?」

「そうなの。」

途中で真紀ちゃんの同級生数人と挨拶を交わし、始まるのを待った。

チャイコフスキーの交響曲第1番は『冬の日の幻想』というタイトルが付けられている。

私は学生の頃の自分を思い出していた。私はこの数年間、何をしていたのだろう。
勉強をして、歌手になって、プロポーズを断ってー。

私が過ごしたあの冬の日々は幻想だったのだろうか。
ニコラスは夢だったのだろうか。暖炉であたたまった夕方も、語り合った夜も、
愛に包まれた朝も、すべては儚く散り去ってしまう幻だったのだろうか。

そうだとしたら、悲しすぎる。幻だったとしても、私は音楽を聴く度に彼のことを思い出す。
全部の音に彼の息吹を感じる。感じる心を教えてくれたのはニコラスだ。
彼がいなければ、私は今頃音楽に携わっていなかっただろう。

もう一度逢いたい。逢って確かめたい。あの日々は幻想なんかじゃなかったと。
私たちは確かに存在したということを。
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