いとしい傷痕







私はリヒトに会うために東京へやって来た。


勉強したいことはあったけれど、それは別に地元の大学でも学べることだったから、東京の大学を受ける必要はなかった。

でも、進学という最大のチャンスを逃したくなくて、母であるミサと祖母のユウコを必死に説得したのだ。

もうこれ以上、リヒトのいない場所で生きていくのは無理だと思った。

我ながら呆れる志望動機だ。


とはいえ、せっかく入学できた大学なのだから、がんばって通おうとは思っている。

でも。


「……わっけ分かんない」


私は今、ガイダンスブックに顔を伏せて項垂れていた。

履修登録の真っ只中。

必修科目やら選択科目やら必要単位数やら、今まで聞いたこともなかった単語のオンパレードで、いったい何をどうすればいいのか、わけが分からないのだ。

大学って、どうして受ける授業を選ぶだけのことがこんなに難しいわけ?


授業の一覧表を見ながら、大学の教育センターにある共有パソコンで履修登録をしてみるものの、果たして正しいのか。

もしかして、後になって『必要単位がとれていません』なんて言われて留年になったりして……。


周りを見回してみると、私と同じように履修登録に苦労しているらしい新入生らしき学生がたくさんいる。

でも、私と違うところは、誰かと一緒に苦労していること。

もとからの知り合いなのか、大学に入ってから友達になったのかは分からないけれど、とにかく誰かしらと一緒に登録作業をしているのだ。


わたしの場合は、地元や高校での知り合いはこの大学には一人もいない。


それに、みんなは合格者オリエンテーションや入学式やクラスの顔合わせなどの機会で、まだ授業が始まっていないこの時期でもすでに、友達ができているらしいけれど、

私は誰ひとり顔見知りも新しい友人もできていなかった。


でも、べつに寂しいとかつらいとかは、ない。

いつもこうだから。

私は、いつも誰からも近づかれない。

それはきっと、この見た目に原因があるんだろうなと思う。


こちらからも無理に声をかけたりはしないので、基本的に学校などでは私はいつも一人だった。


< 14 / 25 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop