主任は私を逃がさない

 言われた通りについて行ったら、今度はコスメ売り場に連れて行かれた。

 そこで友恵はファンデやら口紅やらチークやらアイシャドーやら、とにかくもう片っ端から買い物カゴに放り込む。


「ね、ねえ友恵。そんなん買っても私、使い方知らないよ」

「ちゃんと教えてあげるわよ。この週末、私がみっちり特訓してあげる」


 鼻息も荒くそう宣言した友恵から、私は本当に地獄の特訓を受けることになった。

 いきなり要求されるハイレベルテクニックに、メイク初心者なうえ元々ぶきっちょな私は悲鳴を上げる。


「い、いテテテ!」

「何度言えば分かるの!? ビューラーは目蓋の肉じゃなくて、まつ毛を挟むの!」

「うまくアイラインが引けない……」

「歌舞伎役者じゃあるまいし、隈取りしてどうすんの! やり直し!」

「チークと口紅ってこれでいいの?」

「まるっきりオカメインコにしか見えない! メイクで笑いをとるんじゃない!」


 般若のように目を吊り上げて机をバンバン殴りつける友恵に叱責されながら、特訓は朝となく昼となく夜となく、容赦なく続いた。

 手加減も手ごころも一切なしの厳しい指導に、本気で泣けてくる。


「う……うえぇ……」

「泣くなバカ者! アイラインが滲む! 泣いてるヒマがあったらマスカラを塗れ!」


 ……知らなかった。メイクってスポコンだったんだ。

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