主任は私を逃がさない

 やがて文面が

『頼むから、無事に家に着いたかどうかだけでも教えてくれ』

 という哀願調になり。

 迷いに迷った私は勇気をふりしぼって『着いた。無事』とだけ返事をした。

 そしたらその後は着信音がピタリと止んで、部屋には息苦しいほどの静寂が訪れる。

 シーンとした静けさが心細くて、閉ざされた空間にひとりぼっちで取り残されたような気持ちになってしまった。


 寂しさを噛みしめながら考えるのは、史郎くんのことばかり。

 こんな風に彼が心配するのは、私にもしもの事があったら今度こそ両親に面目が立たなくなるから。

 私の事を思ってくれているわけじゃない。

 そう考えるたびに心にポッカリ開いた穴がどんどん大きくなって、飲み込まれてしまいそうだった。


 掻き毟られるような切ない想いが波のように押し寄せて、どうにもならない。

 こんな気持ち、生まれて初めて……。

 頭から布団を被ってグスグス泣いていたら、知らずに寝入ってしまったみたいで。

 スズメの鳴き声を聞きながら目覚めた私の髪や肌は、心と同様に悲惨な事態に陥っていた。


 とりあえずメイクを落としてシャワーを浴びて、髪を拭きながらテーブルに向かって、大量のメイク用品を見ながらゲッソリする。

 いま落としたばっかりなのにまた塗るのか。私、なにやっているんだろう。

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