鉛筆のぼく。

と、幸福な王子


翌日、僕は覚悟を決めた。
力一杯踏ん張って、おねいさんの役に立とうと決めた。

大好きなおねいさんのためだ。
僕はおねいさんの為なら、なんでもしたいのだ。

おばさまは僕の覚悟を聞いて、寂しそうに笑った。

やっぱり、僕が消えて無くなってしまうことを知っていたようだった。

僕はおばさまにお話をねだった。
今までたくさんお話をしてきたけれど、しっかりとおばさまの話を聞いて、覚えておきたいと思ったのだ。たとえ消えてしまうとしても。

おばさまは素敵な話をしてくれた。

それはおねいさんが昔、音読していたという絵本に書かれているお話だそうだ。

幸福な王子、というタイトルの絵本はこんなお話だった。



ある日、ある街に王子がいた。

王子は街の中心に立つ像で、身体中を高価な装飾品で飾られていて、僕らみたいに心を持っていた。

王子は人間として生きている時、大層贅沢で幸せな暮らしをしたので、幸福な王子、と呼ばれていた。
しかし、その街にきてから王子は人々が貧しい暮らしで、苦しんでいることに気がついた。

それを哀れんで、王子はやってきた渡り鳥にある話を持ちかけた。

自分の体を飾っている装飾品を、貧しい暮らしをしている人たちに与えてくれないだろうか。

渡り鳥は、すこし悩んだが、了承した。
王子が宝石で作られている目から、大粒の涙を流していたからだ。

渡り鳥は街中を飛び回った。王子の宝石を手にした人たちはとても喜んだが、逆に、王子はどんどんみすぼらしくなっていった。

渡り鳥も疲れ果ててぼろぼろになり、王子の宝石が全てなくなると同時に死んでしまった。王子は嘆き悲しんだ。ただみすぼらしいだけになった王子は、街の裕福な人たちに、醜いと蔑まれ、溶かして処分されることになってしまった。

足元にあった渡り鳥の死骸も発見され、溶かされて心臓だけになった王子とともに処分された。

神様がある日、天使に言った。

この街で一番美しいものを二つ持って来なさい。
天使は、王子の心臓と、渡り鳥の死骸を持っていった。それを見た神様は、天使を褒めた。なんて美しい心だろうか。

そうして神様に見染められた王子と渡り鳥は、天国で幸福に暮らした。




僕は、自分の部屋でそのお話のことをおもいだしていた。

王子は僕みたいに自分の体を差し出して貧しい人たちを救った。けど、僕は王子みたいに立派じゃない。おねいさんの役に立つことしかできない。

でもやっぱり、それが僕の一番の望みで、僕がここにいる理由なのだ。

僕が消えてしまう最後まで、僕はおねいさんの側で、役に立ちたいのだ。

もう、おねいさんの暖かい指に抱きしめて貰うことは無くなってしまったけれど。

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