史上最悪!?な彼と溺甘オフィス
3章 退屈しのぎの代償
「瑠花、こっち見て」

「・・・嫌です」

「ダメ。ちゃんと顔見せて」

霧島さんの大きな手で頬を包まれて、正面を向かされる。

長い睫毛に縁取られた切れ長の瞳が私を見つめる。

甘い微笑みを浮かべて、私のおでこに優しくキスをする。


霧島さんはいつだって、驚くほど甘く優しく私を抱く。

宝物に触れるかのように大切に扱ってくれるから、自分がすごく良い女なんじゃないかって錯覚してしまいそうになる。



霧島さんとこういう関係になって、あっという間に数ヶ月が経っていた。


霧島さんに恋をしている訳じゃない。


だけど・・・


霧島さんと過ごす時間はまるで麻薬のように私を惹きつけて離さない。


甘くて、ずるくて、ひどく心地良い。



「女はさ、身体を重ねると情がうつるってよく言うけど例外もあるんだな」

脱ぎ捨てたワンピースを再び身につけようとする私に霧島さんはそう言った。

「私のことですか?」

振り返らずに返事をした。

霧島さんは私のワンピースのファスナーをあげながら、話を続ける。

「そう。一理あると思って、同じ女とは何回も関係持たないようにしてたんだけど、お前は永遠に俺に情なんか持たなそうだな」


「そんな事ないですよ。 それなりにはありますよ、情」

「嘘つけ」

私は薄く笑った。

「うーん。私は情の総量が他の人より少ないのかも知れないです。

大体、霧島さんにだけは言われたくないですよ」

霧島さんは愛情も同情も持ち合わせない男だ。

甘く優しい仮面を素顔だと信じられるほど、私はもう純粋じゃなかった。
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