陰なる閃刃
虎之助が平然とした顔で言った。


「ここに捨て置こう」

「このままで良いので?」

「ああ」


目撃者がいるわけでもない。

比草屋の屋敷にいる人間が藤吉の姿を見てはいるが、暗い夜中で提灯の明かりのもと、手ぬぐいで顔がよく分からないようにしている。

比草屋を呼び出した者を探そうとしたところで、藤吉にたどり着くことはないだろう。


「長居は無用だ。帰ろう」


虎之助がそう言うと、藤吉は虎之助に提灯をわたし、喜八郎とともに屋根づたいにその場を去って行く。

虎之助は提灯を手に、利巌の屋敷に向かって歩く。

帰る道すがら、虎之助は、平穏に過ごすよりも闇にまぎれて血をもとめる自分を思う。

いままでの生き方は変えられそうにない。

自分を抑えてくれる人物がいなければ、自分はどうなることか。

ふつうに生きる人々には分からない憂いを抱えながら、利巌の屋敷に歩を進ませる虎之助であった。



〈鬼神の章〉完



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