身代わり王妃の恋愛録

一体どれくらい長い時間、薄暗く居心地も悪い馬車に揺られたのかわからない。かなり長い時間だったような気もするけど、それはたぶん体感がそうであるだけで、そんなに長時間ではないのだろうと思う。檻の中に繋がれた正装の王女なんて外聞が悪いにもほどがあるから、移動に何時間もかけていられないはずだ。

馬車の揺れが収まった後はゆっくりとどこかに運ばれ、ようやく降ろされると檻を覆っていた布が外された。

檻の隙間から手渡された手紙には詳細が詳しく書かれていたから自分がすべきことはすべて理解している。ミレイの代わりにセレストの王妃として一ヶ月間、周りを騙し続けること。これが私の任務のすべて。

ここまで来れば逃げることはままならないし、“ミレイ”として国の道具としてここにいる私が逃げる訳にはいかない。腹をくくるしかない状況が手伝って、一ヶ月間ミレイとして職務を全うすることを決めるのはそう難しいことではなかった。

自国にいる間、私と違って身体がそんなに強くないミレイの代わりに社交界に出ることは幾度となくあったのだ。一ヶ月間周りを騙すなど、造作もない。私の嫌いな女王の弱みにもなるだろうし、一ヶ月間やり通すのは私にとって決してマイナスではない。幸いなことにこの国にはよく遊びに来るから自国のものとは違う言語も文化も私にとっては苦ではないし。

そう自分に言い聞かせた私はただ静かに通された部屋で国王陛下が現れるのを待った。

できれば良い人だと良いなぁ、なんて願いながらー。
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