彼には誰も敵わない


『よーぞら!』

にっこり、可愛らしい笑顔で愛想を振り撒いてくる男。

「…………………なに」

夜空、名前を呼ばれパソコンからは目を離さず手も休めずに、仕方なく返事をする。

『俺に会えて嬉しくないの?』

計算してやっていると分かってはいても、この男の甘えは最上級。

「…嬉しい、けどさ───」

射殺されそうな強い視線に耐えきれず椅子をくるりと回して男に向き合い、どうにか宥めようと口を開きかけた、その時。

「おいおい、三上にばっかり構うなよ」

俺も構えよ、笑いながらそう言ってきたのは部長。
出来ればこのまま、部長の方に行ってくれないかなーと私からようやく視線をそらした男に強く願う。


しかし、この男にそれが通じるはずもなく

『部長にはー、そのうちご機嫌とりに伺いますから』

にっこり、例の老若男女をも虜にする笑顔を浮かべれば部長はあっさり負けた負けたと両手を上げて私に苦笑いをくれた。

「てことだ、三上」

「部長、そこは上司としてちょっとくらい…………」

「無理無理、俺もこいつには弱いから」

最早、開き直って素直に部長がどや顔でそう言えば聞き耳を立てていた同僚たちから笑い声が上がった。

それに、三上最近泊まりっぱなしだろ。
そう言われれば、確かに。でも好きでこの仕事やってるわけだし。

けれども、この男はすでに決定事項といわんばかりに私の手を引いた。

「え、ちょっ、、待って」

『やーだね、夜空とゆっくりするの久しぶりなのに』

「……それは、仕事が、ね」

『だから、わざわざ俺からお迎えに上がりましたよ。お姫様』

「それはそれは、キザな王子様ね」

『似合う、だろう?』

流し目に確信犯でいうこいつは、ムカつくことながら正論で、むしろ惚れ直す。
言わないけど、


とりあえず、それまでの仕事を保存してパソコンをシャットダウンするの待っててもらう。


その間もこの魅力的すぎる男は可愛い可愛い後輩に言い寄られていた。

「私もー、誘ってくださいよー」

自分が可愛いと分かっているその笑顔でこの男に色目を使えば、それに気づいているが気づかぬフリをしているのかそもそも気づいていないのか(きっと、絶対前者)男は笑顔で言葉を返した。

『んー、1時間後なら』

「ほんとですかー!わぁ嬉しい、楽しみにしてます」

『うん……もう終わったでしょ?夜空。今からは仕事とじゃなくて俺に付き合ってもらわなきゃ』

「あー…もう、分かったわよ」

なんだかんだ、私だってこいつに弱いんだ。むしろ、こいつに勝てるやつに私は今だかつて会ったことがない。




「…部長の許可おりたんで、休憩行ってきます」

『なんなら、半休でいいぞ』


名前を呼ばれた彼は嬉しそうに私を抱き寄せ、私の髪にキスを落とした。





Fin.
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