閉じたまぶたの裏側で
私の事でこんなに真剣に考えてくれるの、應汰しかいないのかも知れない。

不倫してるなんて、今まで仲のいい友達にも言えなかった。

もしそれを話したら、軽蔑されるんじゃないかと思うと怖かったから。

「應汰は優しいね。」

無意識のうちに、そんな言葉がこぼれ落ちた。

「優しいっていうか…俺は芙佳が好きなだけ。もう芙佳にそんな思いさせたくない。」

「…ありがと…。彼もそんなふうに思ってくれたら良かったんだけどな。」

應汰は缶コーヒーをベンチに置いて、私の手を握った。

「俺は思ってる。芙佳、そんな男とキッパリ別れて、俺んとこに来い。絶対後悔はさせないから。」

「……考えとく。」

何も考えずに應汰に甘えられたら、きっと幸せなんだろうと思う。

應汰ならきっと私を大事にしてくれるだろう。

だけどまだ、私の心には間違いなく勲がいる。

もう来ないでと自分から言ったのに、もしかしたら七海と別れて私を選んでくれるんじゃないかなんて甘い夢を捨てきれない。

「俺はあきらめないからな?芙佳がうんって言うまで、毎日でも言ってやる。」

「…應汰、しつこいんだよね?」

「芙佳にはな。芙佳を俺の嫁にするって、もう決めたから。」

「勝手に決められてもな…。」

應汰が私への真剣な気持ちをぶつけてくれる事は、戸惑うけれど、正直嬉しい。

こんなに誰かに想われた事はなかった。

應汰の目はまっすぐで曇りがなくて、言葉にも深い愛情を感じる。

「俺の隣でウエディングドレス着て歩くのは芙佳だからな。」


ちょっと…いや、かなり気が早いけど。







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