閉じたまぶたの裏側で
定時になり、部長が私の退職を部署の人たちに知らせた。

突然の知らせに驚かれたり、よく面倒を見てくれた先輩に“もっと早く言ってくれたら送別会くらいはしたのに”と言われたり。

後輩たちも、“お世話になりました”とか“寂しくなります”と言ってくれた。

ありがとう、もうそれでじゅうぶん。

本心かどうかは別としても、少しでも惜しんでもらえたから、6年間勤めたこの会社を心置きなく去る事ができる。


今日で会社を辞める事は、應汰には話していない。

ずっと顔も合わせていないし、話もしていないから当たり前だけど。

来週から私が出社しなくなったところで、應汰はきっと気付かない。

それでいいんだと思う。

お礼を言う事も謝る事もできないけれど、應汰はきっとそんな事は望んでいないはずだから。


應汰と一緒に過ごした楽しかった日を思い出すと、もう友達にも戻れない事は寂しい。

泣きたいだけ泣けと言って優しく抱きしめてくれた應汰が好きだった。

勲の事を想いながら、私の弱さを受け入れてくれた應汰にも惹かれていたなんて、今更気付いても遅すぎる。


“無理なんかしなくていい。芙佳は芙佳のままでいいって、俺は思う。”


應汰の言葉が脳裏を掠めた。

そんな事を言ってくれたの、應汰だけだった。


應汰、ありがとう。

もう会えないけど、私にとって應汰の存在は、思ってた以上に大きかったよ。





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