鬼の双子と新選組

「火雨…?」
「…なんだよ、時雨」
「いや…あん時に、戻ったみてぇで…なんだか、違和感」

時雨が複雑そうな表情をして、言うのも分かる。
下界してからは、女を忘れてたんだ。

高天原では、どちらかと言うと女の着物っぽい物を着ていたが
下界して女の着物を着た事があるか、と言われればなかった方だ。
下界の着物は男用の物しか着なかったから、こんな町人の女の着物を
着るのは初めてなのだ。

「…今、あの時の話をするんじゃねぇ…腹の虫がざわつくだろうが」
「…だよな、すまん」

時雨と会話していると、皆が付いて行けなかったらしく、
藤堂さんが聞いて来る。

「あのさ…前から気になってたんだけど、あの時の話とかって…何?」
「…それは…過去、の事です」

あながち間違ってはないけど、目を逸らしながらそう言う。

過去の事なのだが、何故か忘れ去ってしまう事が出来ない。
最近あったのかのように、ずーっと思い出してしまう。
最近は夢にまで出てきたり、鮮明に思い出したりしてしまうので
多分そろそろ、高天原から誰かが来るような気がする。

「…まぁ良い、それじゃあ密偵の方を頼んだぞ…山崎、こいつを頼んだ」
「承知いたしました」

山崎さんと先に屯所から出て、密偵をする場所へと向かう。
枡屋の向かいにある、宿屋に暫く居させて貰う事になっているらしい。
二階に上がり、部屋に入ると枡屋が上から見下ろせて
監視する事が可能である。

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