君のいる世界

「玲奈、時間が押してます」

 時計を確認しながら、橘マネが入ってくる。

 涙目でも、伝えたい事は言わないと……まただとか、次だとかがいつなのかわからない。いつなんて無いことなのかもしれないし……


「ごめんなさい。あたし…礼治さんに会えて、すっごく…嬉しかった」


 涙でにじむ礼治さんは、それでもソフトフォーカスがかかっているかのように、柔らかく優しいイケメンだった。

 こんなに格好いい人が、好かれて大切にされない訳ないよね……



「またね。玲奈ちゃん」

 『また』それを一番願っているのは、あたしだ。でもそれを礼治さんが、言ってくれたから、あたしはまた頑張れる。


「絶対ですよ!!……ぜったい…また」


 マネージャーの車に乗り込んで、すぐに窓を開け放つ。窓から乗り出して手を振って、礼治さんが見えなくなるまで見つめていた。

 角を曲がって、礼治さんが見えなくなってからはもう涙が止まらなかった。ぼたぼたと大粒の雫が膝を濡らし、夕立にあったかのようにずぶ濡れになっていく。


「空港までですよ」


 ぽんと膝にタオルが放られる。運転している橘マネは、こちらを見もしないでタオルを寄越す。今はそのほうがよくて、顔にタオルを押し当ててわあわあ泣きわめく。


 東京に帰ったら、仕事が待っているから、泣けるのは今だけだから。


「飛行機を降りる頃には、また気分も変わるでしょう」

  
 橘マネの言葉には、獣がうめくような声で答えた。こうして初めての写真集の撮影は終了した。
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