君のいる世界

「いいんだよ。玲奈に使って貰いたいからあげるんだよ。お母さんに怒られないように、じいちゃんから言っておくから」


 おじいちゃんはそう言って頭をなでてくれる。涙と鼻水でぐずぐずだったあたしは上手く声が出せなくて、こくこくと頷いた。あんな小さなシミで大騒ぎして、あたしはおじいちゃんのカメラを取ってしまったのだと思うと申し訳なくて、でも謝れなくて涙が浮かんでくる。


 心のどこかで、自分は悪くないと無理やり思いこもうとしている。


「写真を撮ってみようか。使い方を教えるからやってみな」

 体を包むように後ろからあたしを抱えたおじいちゃんが、ひとつひとつの操作を教えてくれる。

 抱っこで抱えるほどの小さな子供ではなくなったけれど、おじいちゃんのタバコの匂いがして、だんだんと落ち着いてきた。


「難しく考えないで、玲奈が好きなものを撮ったらいいよ。きっとそれが一番いい写真だから」


 おじいちゃんが手を伸ばして支えてくれたレンズの先には、鮮やかに咲く立葵があって淡いピンクの花がたくさん空に向かって花びらを開いていた。


 青い空に映えるこの花だって、おじいちゃんが丹精こめて育てたから、こんなにきれいに咲いているんだ。

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