雪のような恋。
しばらくして、連絡を受けたお母さんが扉を開けた。
冬の暮だというのに、マフラーも手袋もせずに息を切らしていた。
すぐに先生に頭を下げた。何度も頭を下げ、謝罪した。

また、自分を責めた。
お母さんにどれだけの迷惑になるのか、幼かった俺には想像もできなかった。

先生がお母さんをなだめて、今日は帰るように言った。
お母さんまた頭を下げて、俺を連れて部屋を出た。
無言のまま、停めていた自転車を押して校門をくぐった。
少し歩いた後、お母さんが重い口を開いた。

「どうして?」

俺はこの質問に答えることはできなかった。
やはり、美雪に知られるのが怖かった。
黙ってしまった俺をみて、お母さんは続けて言う。

「美雪ちゃんのため?」

美雪のため。俺は美雪の敵討ちをしたかったのか。
美雪のために、あんなことをしたのか。
あれが、美雪のためになったのか。
それはきっと違う。

「違う」

お母さんは、じゃあどうして?と言いたげな顔をしている。
理由は、自分の不甲斐なさへの苛立ちと、美雪のいない寂しさだった。
でも幼い俺に、そんなことわかるはずもなく
考えれば考えるほど苦しくなる。
俺は考えることを止めて、自責し続けた。

「俺のせいなんだ」

お母さんは否定した。

「風太は悪くないよ」

その言葉は聞こえなかった。
たとえ、俺が悪くなかったとしても、俺が気付いていれば
美雪は学校へ来て、一緒に卒業できた。
俺は美雪が好きなのに、ずっと一緒にいたはずなのに、
何もできなかった。
あの仕返しは何の意味もなかった。
俺はもっと深くへ沈んでいく。

「でも、俺は…」

言葉を止めた。もうこれ以上、お母さんを悲しませたくなかった。
お母さんの目は赤く、今にも泣き出しそうだった。
こんなお母さんの表情を見たのは、これまでもこれからも
この時だけだった。
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