ハードな彼と溺れる恋を 【ぎじプリ】
性悪な男

【性悪な男】



「ちょっとちょっと、ユウさん!!何勝手に私のパソコンに接続しているんですか!!」


会議室から帰ってくると、定時を過ぎてガランとしたオフィスにはユウさんの姿だけがあって、彼はなぜか私の席に座っていた。


「『亜美ちゃんへ 了解!残念だなー。でもデート楽しんで来て!また私との飲みにも付き合ってね♪』、か。ふうん、おまえ経理課の沢口さんにフラれたんだな。今夜もおひとり様ってやつ?」

「うるさいですよっ、もおッメール読み上げないでください!また勝手に人のパソコンのデータ抜き取ったんですかっ」


席から追い払うと、ユウさんは私をニヤニヤしながら見下ろしてくる。


「見られて困るなら社内メールを私用なんかで使うなよ。『焼肉女子会』とか『婚活サークル』とか、おまえもよくやるよな」
「…………最低。ほんっと、信じられないっ」


私は見てくれだけはいい彼を、非難を込めてぎろりと睨みつける。

タイトなスーツがよく似合っていてどう見てもイケメンなビジネスマンにしか見えないユウさんは、実は映像や写真、文章などのデータを保存して記録できるメディアの一種、いわゆるUSBメモリだ。

本来USBはパソコンと周辺機器など“ハードウェア”と“ハードウェア”同士を繋ぐもの。だけど新型インターフェースのユウさんは多機能で、ハード以外の規格……およそ機械とは縁遠いモノとも接続可能だったりする。

彼は配属されてすぐに私に与えられた企画課の備品で、付き合いはかれこれ3年になる。課の中ではコンビを組んで二番目に長いけれど、私はいまだに彼の予想外の行動に翻弄されることがあった。


「ユウさん、もう勝手に私のパソコン使わないでくださいねっ。≪接続≫して無断でデータを抜き取るのも禁止です!………あ、そうだ。≪切断≫するのちょっと待って。ついでだからこの前保存してもらったプレゼン資料、不要になったんで今削除しちゃいますね」


彼と≪接続≫したままのパソコンのモニターには、彼の頭の中の記録(データ)がそのままファイルごとに整然と羅列していた。

『プレゼン2』のファイルにポインタを合わせてドラッグでゴミ箱に放り込もうとすると、ユウさんは渋い顔をする。


「これって、この前おまえが半泣きで作ってたヤツじゃないのか?消していいのか?」

「別に泣いてませんけど……いいんですよ。今課長に見てもらったけど、もう手直ししようがないくらいダメ出しされちゃって。結局次回の企画会議まで時間がないから、急遽課長が作成した資料でいくことになっちゃったんです。あとでメール添付されてくるから、それをユウさんの中に保存しておいてもらえますか?」


そう尋ねた途端、わかりやすいくらいに彼の端正な顔が歪んだ。


「ふざけんなよ、誰があんなハゲ親父のデータなんて取り込んでやるかよ」
「そう言わず。だいたい真壁課長は禿げてなんかないでしょう」

むしろ課長は仕事の手際もルックスもぴか一で、社内中の女子が狙ってる超優良物件だ。

「違う違う。そっちもそっちで気に食わないけど、そいつの方じゃなくて……」

言い辛そうに言葉を濁し、ライバル心みたいなものをちらつかせるユウさんの反応にすぐにピンときた。

「もしかして『うーさん』のこと言ってますか?」


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