ハードな彼と溺れる恋を 【ぎじプリ】

「……とりあえずデータはあとで課長からメール添付されてくる予定だから、保存は後日でもいいですよ。今日はもう終わりにして私も帰りますね」

もう覗かれる心配がない感情と言うデータを、胸の底の底に押し隠して。何事もなかったフリして私が言うと、ありえないくらい近い距離にユウさんが顔を寄せて来た。

私の顎を捕えた指が、強引に上を向かせようとしてくる。


「ちょ、ちょっとやめてくださいッ、何セクハラかまそうとしてんですか!!」

この期に及んでまだ彼のふるまいにときめきそうになってる自分が許せなくて、つい強い語調でユウさんを突っぱねようとすると。

「------感じてたくせに」

ユウさんはデータを削除される前に私に見せていたのと同じ、とても意地悪な顔して言ってくる。

「おまえ、この前給湯室で俺と≪接続≫したとき、喜んでたくせに」
「なっ…………どうしてそれを覚えているんですか……っ!?」


彼の笑みが深くなる。完全に失言だった。今の言葉は、彼の記憶を私が削除していたと暴露しているようなものだ。


「前からな、俺はときどき自分の記憶が飛び飛びになってることに気付いていたんだよ。だから和子さんに相談してたんだ」

和子さんは管理データ課の女性管理職で、凄腕のSE、プログラミングが趣味で、休日は大学生に交じってコンピューター言語の勉強会サークルに参加しているという猛者だ。和子さんはユウさんのことを息子のように可愛がっていた。

「その和子さんが俺に自作のソフトウェアをくれたんだよ。どんなソフトか分かるか?」

楽し気に聞かれたけど、返事は出来なかった。ただ悪い予感に背中が痺れたように疼く。

「削除されたUSB内のデータを復元させることが出来るっていう、魔法みたいなソフトを和子さんは無償提供してくれたんだ。やっぱ女にはやさしくしておくもんだな?」


その笑顔であの鬼管理職をオトしてきたのかと思わせる、にっこり笑顔を私に向けてくる。


「…………じゃあまさか、さっき私のパソコンに≪接続≫していたのって………」

「ああ。おまえのパソコンはソフトの動作環境として最適だったからな。さすが和子さん、おかげさまで欠けた記憶はばっちり補完済みだ。おまえが断りもなく勝手に消した、俺の大事なプライベートの記憶がな?
ちなみに忠告替わりに言っておくけど、勝手にパソコンから復元ソフトをアンインストールしようが、俺の中にソフトのデータはもう保存済みだから。何度でもインストール出来るからな?」



ああ、くそう。悪魔め。



つまり何度私が彼の中にあるデータを消そうが、何度でも復元出来るってことなんだろう。いったい私がどんな思いでこの三年間の記憶を、ユウさんの中から削除したと思っているんだ。


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