ホットな恋
いつまでも
今日の仕事を終えて帰ろうと、給湯室で洗い物をしているところで呼び止められてしまった。あーあ、嫌な先輩につかまってしまった。


「ねえ、間久さん。クリスマスの休み代わってくれない? どうせお1人様のクリスマスでしょ?」

「いや……それは……」


この上から目線の物言いに本当は腹が立つけれど、先輩だから何も言い返せなくて、曖昧な返事をしてしまった。


それに私にだってクリスマスの予定くらいある。いまさら休みを代われって言われても、無理に決まっている。でも、それをはっきりと言えない自分が情けない。だから先輩にこうやって付け込まれてしまうんだろう。


「……はっきり答えてくれない? 勤務確認したらさ、丹部君もお休みみたいだったし、イブからデートに誘おうかなって思って。ね、だから代わってくれるよね?」


やっぱり先輩は気づいてこんな意地悪な話をしているんだって確信した。きっと先輩は私と彼の関係に気づいている。じゃなきゃ、わざわざここで彼の名前を出すはずがない。


「休みは代わってもいいですけど……丹部さんはダメです。絶対にダメです」


私の返答にさっきまでにやにやと笑っていた先輩から表情が消えてしまった。射貫くような視線に恐怖を覚えたけれど、今曖昧に流してしまうわけにはいかない。ここで了承してしまうのは、私も嫌だし、彼に対しても失礼な気がするから。


「あんたは……私の言うことを黙って聞いていればいいのよ。第一、地味なあんたは丹部君に釣り合わないのよ」


そんなこと、私が一番分かっている。地味で目立たないし、美人でもないけれど、彼はそれでも私がいいって言ってくれている。私は彼が好きで、彼も私を好きでいてくれる以上、先輩になんと言われようと、彼の隣を譲る気なんてない。


「確かに私は神谷先輩みたいきれいじゃないです。けれど彼を好きな気持では誰にも負けないです。だから、彼を譲ることは絶対にありません」


勇気を振り絞って出した声は、少し掠れていて、震えてしまっていた。
< 1 / 3 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop