真夜中のお届け物【ぎじプリ】
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粉雪が溶けたせいで少し湿った白い封筒を破ると、中から出てきたのは待ちかねたデータの入ったCDR。
本来ならメールのやり取りで澄んだ案件なのに。
クライアントのパソコンの調子が悪いんだかなんだか知らないけど、データを添付したメールがなぜかエラーになってしまうせいで、急遽バイク便で届けてもらうことになり、おかげで私一人データを到着するこんな時間まで残業するはめにはってしまった。
ひとりで深夜に残業なんて。
こんな時、頼みごとを断るのが苦手な、お人好しの性格は本当に損だ。
まぁ、文句を言っても仕方ないし、さっさとデータを確認してレイアウトを完成させよう。
そう思ってインデザインを立ち上げながら、封筒から出したCDRに手をのばすと、ケースに何かが貼られているのに気がついた。
セロテープで貼り付けられた、舌を出した女の子のキャラクターが描かれた棒付きのキャンディー。
そしてなんの変哲もない薄黄色のシンプルな付箋。
そこにボールペンで文字が書かれていた。
『いつもありがとう。お仕事おつかれさまです』
少し神経質そうな右肩上がりの筆跡。
ペリ、とケースから付箋を剥がし目の前に掲げて眺めた。
打ち合わせの時に一度だけ顔を合わせた、クライアントのメガネの男の姿を思い出す。
「……あの人、こんな字を書くんだ」
いつもメールのやり取りしかしないから、知らなかった。
きちんとした送付状を用意する暇もなく、慌ててこの荷物を送ったんだろうな。
いかにも急いでましたと言わんばかりの、付箋に書かれた短い文章と、添えられた棒付きキャンディーのギャップがすごい。
なんでよりによってこんな子供向けの飴を。
たまたま手元にあった飴を気まぐれて添えてみただけなのか、それともまさか大人の女のご機嫌をこんな子どもじみたご褒美で取れるとでも思っているのか。
あの生真面目そうなメガネの男が、どんな顔をして封筒にキャンディーを入れたのかを想像して、思わず吹き出してしまった。
「ほら、たまにはメールじゃなく、こうやって直接やり取りするのもいいでしょう?」
デスクの上に置かれた白い封筒が、私の笑い声を聞いて得意げにこちらを見上げながらそう言った。
「生意気言っちゃって」
ふんと鼻を鳴らしながら、棒付きのキャンディーの包み紙を破り、口の中に放り込む。
薄い紫色の飴が歯にぶつかり、からんと可愛い音がした。
人工的なぶどうの匂いと、懐かしい甘さ。
彼の筆跡も、このチープな甘さも、メールの送信じゃ知ることができなかったもの。
「……まぁ、確かに。深夜の残業は勘弁してほしいけど、こういうやり取りもたまには悪くないかもね」
私がそうつぶやくと、真夜中に届いた白い封筒が、デスクの上で小さく笑うようにかさりと音をたてた。
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真夜中のお届け物
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擬人化 深夜に届いたバイク便


