ひとみ
鍵を解除されたドアノブは、なんのストレスもなく回された。
そして、扉がゆっくりと開かれて、外の眩しい光が差し込んできた。
その眩しい光の中に細身のシルエットが映し出された。
その影はゆっくりと1歩を踏み出し、玄関に入ってきた。
「ちょっと、駿平君、ヒドいお出迎えじゃなくて?」
真っ赤な唇から語気を荒げた言葉が僕に向かい飛んできた。
そしておもむろに細いメンソールタバコを1本くわえ、ライターで火を点けた。
そして、煙りを吐き出しながら、ボクに向かい次の言葉を続けた。
「新田駿平君でしょ?返事くらいしなさいよ。いったいなんだって私、いきなり閉め出し食らわなきゃならないのよ」
イライラしているように彼女は腕組みをした。
ボクはよりいっそう、自分の置かれた状況が理解できなくなった。
「あ、あの、すみません」
玄関で尻餅をついたままボクは口を開いた。
彼女は大きな瞳で鋭くボクを見返した。
「あ、あの、どちら様でしょうか?」
ボクの言葉に彼女は眉間にシワを寄せた。
「はぁ?なに言ってるの?私、楠木ひとみよ。お父さんから話、聞いてるでしょ?」
余計に話が見えなくなってしまった。
「あ、あの、父からって、いったいなんのことでしょうか?」
「んあ?だから、私、今日からここで住み込みで家政婦するのよ!聞いてないの?」
あまりの彼女の剣幕に、ボクはカクカク頷くしかなかった。