ごくまれな事なので、ついでに奇跡も起きたらいいのに
「『お疲れ様です』の一言が言えるだけで幸せなんて、香奈には勿体ないよ」

「……勿体なくなんかないよ」

そう小さく呟いて俯く香奈の顔を、彼は除きこむ。


「大丈夫だから、勇気出して声かけてみな? 俺がついてる」

香奈は、彼と数秒視線を合わせた後、『うーん』と唸った。
そして、小さく5回首を縦に振って笑顔を作ってみせた。


「分かった。そのうち!」

「お前、それまた先伸ばしにするパターンだろ」

彼には相変わらずお見通しなのを、ははっと笑って誤魔化すと、

「私そろそろ戻るね」

と、香奈は逃げるように足早にその場を後にした。


残された彼は、

「しょうがないな」

と香奈の後ろ姿を見送った。

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