夢が醒めなくて
坂巻、だ。

希和のお母さんと仮定している、宮家に嫁がれたという、お寺のお姫さまは、旧姓坂巻希久子さま。

てことは、今年の我が家の園遊会に来てくださったお裏方さまの息子さんが、あの小柄な少年なのか?

「まあ、他宗教を否定する宗派ばかりじゃないからねえ。特に日本は神道とか他の宗教や信仰もうまく取り入れて融合できた宗派も多いし。彼、坂巻くんのご実家もおおらかなんやろ。……本山?」

さらっとそう尋ねると、朝秀くんはうなずいた。
「坂巻は嫌そうやけど、けっこう何でもありな宗派みたいですわ。父親のことを『猊下』って呼んで、反発してるっぽいけど。坂巻は真面目な堅物やからなあ。」

真面目な堅物……。
やばい気がする。
希和、そういうの、好きそう。

悶々としてる俺に、朝秀くんは飴の袋を返しながら言った。
「さすがですね、先輩。もう気付いてはるんですか。……希和子ちゃん、坂巻が気になってるように、俺も感じてます。」

「やっぱり!?……てか、朝秀くん。そんなにわかりやすく、希和はあいつに興味持ってるん?」
あいつに惚れてる?とは、言葉にもしたくなかった。

そのへんは、朝秀くんも同じ気持ちらしい。
「やばいです。希和子ちゃん本人が、自覚してへんから、気づかせんように邪魔してるんやけど、やばいです。」
……朝秀くん、なんか、不憫かも。

「坂巻くんのほうは?希和に気ぃありそう?」
そう尋ねると、朝秀くんは手を横に振った。

「ないない!てか、坂巻には全く浮いた話ないんですよ。どうやら既に結婚相手の候補が準備されてるらしくて。あいつ、小学校の修学旅行の時に、絶対に自分の意志で結婚できひんから誰も好きになるつもりはない、って言うて、クラス中をどん引きさせよったんですわ。せやし、坂巻自身は殻に閉じこもってますわ。」

……やばい。
坂巻くん、中二病だぞ、それ。
バイク盗まなくても、校舎の窓ガラス割らなくても、かなり重症だ。
希和じゃなくても、そうゆうのに不憫を感じる女子は多いぞ。

「……密かにもててるやろ。坂巻くん。」
そう聞くと、朝秀くんは顔をしかめた。
「そうなんですよー。辛気くさいし、背ぇもちっちゃいし、もてる要素わからんのに、昔から俺よりもてよるんですわ。」

……それは、密かに、じゃないな。
朝秀くん、イケメンだし、ふつうにもてそうなのに、坂巻くんはそれよりもてるのか!

「やばい。朝秀くん、やばいわ。すっごく、やばい気がする。」
オロオロする俺が珍しいらしく、朝秀くんは眉をひそめてから、遠慮がちに笑った。
「希和子ちゃん、すげー。竹原先輩を振り回してる。まあ、大丈夫ですよ。坂巻の頑固さは折り紙付きやし。」

……そーゆーのが、一番怖いんだよ。
一旦、心を開いてみろ、何もかも捨てて駆け落ちだってしかねないぞ。

希和~。
勘違いするなよ~。
そいつは、たぶん、親戚だ~。

恋じゃないぞ~~~~~!
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