奪うなら心を全部受け止めて

出口でシグナルを左に点滅させ…片手でハンドルを操作しながら公道に出た。

左手はずっと涙の止まらない頬にあった。触れる手が温かった。
そして、右手を握った。

「…大丈夫？」

チラッと視線を向けたところで、前方の信号が赤になり停車した。
言葉を発する事が出来ないでいる頭をまた撫でた。

「かしこまらないイタリアンの店にでも行こうかなぁって最初は思ってたんだ。女性はパスタとか好きみたいだし。スイーツも好きでしょ？
だけどバーガー食べたくなったから…ドライブスルーでバーガー買おうか？それでそのままドライブして、海に行こうか？ね？決まりだ。
イタリアンはまた今度、誘うよ」

何も聞きはしないけど…。少しの時間でも、気を紛らわす事が出来るなら、そうせずにはいられない。
青になった。また車は走り出す。

「俺、名前、松下ちからって言うんだけど。
ちからってどんな漢字だと思う？
さあ、シンキングタイムだよ？スタート！
チ、チ、チ、チ…、早く言わないと時間なくなっちゃうよ？」

「…え」

「はい、残り１０秒。ヒントほしい？」

「え…ぇ」

「はい、９、８、７、６、５、４…」

「…えっと、えっと、力、パワーの力ではないですよね」

「違いま〜す。そんな単純ではありませ〜ん。クイズにするくらいだからね」

「３、２…」

「えっと主に税で、主税ですか？」

「お！知ってるねぇ。歴史好きなのかな？それ、いいよね。でも残念、ブーッ。時間切れ。…タイムオーバー」

「あ…」

「能。能力の能で、ちからなんだ」

頭を撫でられた。