完璧上司の秘密を知ってしまった件について
会社を出たところで、凛はデスクの上に携帯を忘れた事に気づき、慌ててオフィスに戻った。

営業一課のドアを開けた凛は、自分の耳を疑った。

「…ふぁ〜…あー、面倒くせえ」

凄く怠そうに、欠伸をしながらボヤいたのは、聞き慣れた声。

その声を辿ると、…やはりあの人、須藤課長だった。

…完璧上司である須藤課長でも、そう思う事もある。凛はさほど気にもとめず自分のデスクに行こうとしたが、足が動かなかった。

…須藤課長が、凄い顔で睨んでいる。

(…私、なんかした?)

そう思ってみたが、思い当たる事はなく。怯えた目で、須藤課長を見れば、まだ凛を睨んでいる。

(…携帯とったら、さっさと退散しよう)

その事だけを考えながら、凛はデスクに早足で歩くと、デスクの上の携帯を引っ掴み、オフィスを出て行く。

「…おい」
「…へ?」

声をかけられ、恐る恐る振り返ると、相変わらず凛を睨んでいる須藤課長に、凛は目を泳がせた。

「…さっきの事、口外するな」

(…完璧上司の仮面が取れるから?)

「…わかったら、さっさと帰れ」

(こんな人は、プライド高そうだし)

「…はい、失礼します」

「…いつまで見てんだ?…さっさと帰れ、グズ」

(ヒーッ⁉︎)

須藤課長からは、絶対でないと思われた言葉が発せられ、凛は顔面蒼白で、逃げるようにオフィスを飛び出した。
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