Mr.ハードボイルド



「お名前、なんておっしゃるんですか?」

彼女は、俺に優しく微笑みかけながら訊いてきた。

「富井です」

「まぁアナタ、トミーちゃんて言うのね」

そう言って、彼女はエリザベートの頭をソッと撫でた。

よしっ!作戦通りだぜ!

俺はわざとらしくならない程度に彼女に笑いかけた。

「ごめんなさい、富井は僕の名前です。コイツの名前はエリザベートです。すみません、僕、とってもマヌケな勘違いしちゃってましたね」

彼女はおかしそうにコロコロと笑った。

「じゃあ、エリザベートちゃんですね?」

「ええ、そうです。すみません、変なこと言って。それでそのコのお名前は?」

彼女はヒョイと小さなその犬を抱き上げた。

「武蔵です」

「ほぅ、武蔵くんかぁ、強そうな名前だ」

彼女に抱えられた武蔵くんは大きな瞳を光らせてこちらを見ていた。

「私、真中祐希ともうします」

へへ、祐希ちゃんかぁ。
俺は得意のポーカーフェイスで答えた。

「改めまして、僕は富井俊介と申します。一応、毎朝この公園でエリザベートの散歩をさせてますんで、また、お会いできましたらコイツと遊んでやってくださいね」

祐希ちゃんは微笑んで

「こちらこそ、よろしくお願いいたします。武蔵のお友達になってくださいね、エリザベートちゃん」

と言った。

ムフフフ、エリザベート、オマエにゃ感謝するぜ!
明日も明後日も毎日ここに来るからな!

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