アンガーコントロール《6秒間の彼》

どうして?
本当に寿命だったの?

「営業二課の近藤課長がふざけて座った途端に壊れちゃって……」

なんだとぉ!近藤のヤツ!
カァッと頭に血が昇った時、どこからともなく彼の声が聞こえてきた。

『ほら!6秒数えて!そして僕を思い出して』

……うん。
わかった。
6秒数える!

そして6秒間を数えるたびに、あなたのことを思い出そう。

それでもやっぱり悲しくて、何も言わずに部屋を出た。

寂しい。寂しくてたまらない。
もう彼に会えないなんて。

ぼんやりと窓から空を眺める。

「瑞希……、どうした?何かあった?」

え?
和也、もしかして追ってきた?

こんな弱ってる時に話しかけないでよ。

「……そんな顔して。何があったんだ?」

どうしてそんなに心配するの?
そう思ったら急に涙がこぼれてきた。

顔を見せたくなくて、思わず背を向ける。

「瑞希」

彼の腕がそっと後ろから伸びて私を優しく抱き締めた。

ああ、この感覚。

後ろから大切に包まれている感覚。

私が望んでいた感覚……。

「大丈夫か?」

「……私、会いたかった」

ポロリと落ちる涙と共に自然と言葉がこぼれ落ちた。

「和也に……会いたかったの」

私を包む腕に力が入った。

「俺も会いたかった!別れたことを死ぬほど後悔した。もう絶対に離さない」

甘い痛みに胸が痺れる。

もっともっと甘えたくて、和也の胸に体を預けて頬をすり寄せた。
そんな私に驚いた様子の和也。

「……瑞希、少し変わった?」

「うん。素直になった、かもね」

「それは、誰かのおかげ?」

「ふふっ、それはね……」

それは、彼のおかげ。

彼に癒され心を静めて6秒間を数えていたら、新しい私が見えてきた。

ありがとう。そしてさようなら。

6秒間の王子様。




※擬人化したのは「管理職用事務椅子の背もたれ」でした。
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