我那覇くんの恋と青春物語~桜沢紗希編~
家の人が出たら切ろう


逃げ道を作ることでようやく踏み切れたのが、帰宅してかなり時間が経ってからだった。


「はい、桜沢です」


その声を聞いて、思わず切ろうとしてしまう。

しかし、本人が出てきた以上、切るわけにはいかない・・・


「あっ、あの我那覇といいますけど」


「えっ・・・あっ、私です。紗希です」


お互い緊張しているような、どこかぎこちない言葉だった。



それでも、彼女の声を聞いて少しは楽になり、「久し振り」と今度は違和感なく言えた。

彼女もどうやら緊張が解けたようで、くすりと小さく笑った。


「もう、突然だったから、ちょっと驚いちゃった」


「電話は突然かかってくるもんだよ」


「ふふ・・・相変わらずだね」


「・・・とは言いつつも、突然で迷惑じゃなかったかな?」


「ううん、全然そんなことない」


迷惑だったかと聞かれたら、そう答えるのが無難だろう。

よほど嫌であったり、都合が悪くなければ・・・


「むしろ・・・嬉しいって思ってるもん」


「えっ」


今、彼女は「嬉しい」と言ったように聞こえた。

いや、小さい声だったが、確かにそう言ったはず。


でも


昨日、海と電話して、今日も昔の友達から電話がかかってきたら、そういう言葉も出るのだろう。


「もうすぐ卒業だね」


「本当、月日が経つのって早いよ」


「昨日ね、海ちゃんに電話したの。雑誌見たら百合ちゃんと二人でインタビューされているから、思わず嬉しくなっちゃって。さっきも百合ちゃんに電話してたんだ」


嬉しそうに話す声に、彼女の姿を思い出す。

彼女は今みたいにいつも元気一杯で、思い出す姿はいつも笑顔だ。
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