パートタイマー勇者、若奥様がゆく
 少し汚れてはいますが、白い詰襟のお洋服に、黒地に金色の糸で細かく刺繍をされたローブを羽織っている彼は、実は王子です、と言われても信じられるくらい、王子様風でした。

「……ありがとうございます」

 私はとりあえず、助けてくれたことへの感謝の気持ちを伝えました。けれども王子様風美少年の表情はちっとも変わりません。硝子玉のように澄んだ目を見開いて、固まってしまっています。

 私の記憶によれば、ご近所さんに外国の方はいらっしゃらなかったはずですが……ゴミ集積所にいるということはご近所さんのはずですよね。

「最近引っ越しされてきた方ですか?」

 そう話しかけてもやはり反応はありません。もしかしたら日本語が分からないのかもしれません。

「きゃんゆーすぴーくじゃぱにーず?」

 英検4級の私の英語が通じるかは分かりませんが、とにかく会話をしようと頑張ります。ご近所さんと仲良くするのも主婦の務めですからね。

「あいあむ『ワカオクサマ』。……あれ? それじゃ日本語ですね。えーと、あいあむ『ニイヅマ』。……これでは同じですね。ええと、あいあむ『にゅーわいふ』? ああ、『にゅーわいふ』で良さそうですね。合っていますか?」

 懸命に言葉を伝えようとしていると、私の声など耳に入らないといった顔で王子様風美少年が私の肩を強く掴みました。

「お前が『勇者』か!」

 あら、日本語ですね。日本語で大丈夫でしたか。ほっと一安心です。

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