知らない貴方と、蜜月旅行
「なに拗ねてんだよ。嘘だ、胸なんかいくらでも、かしてやるよ」
「……」
「なんだよ、来ねぇのか?……あー、恥ずかしいのか」
「……うるさいよ」
「ったく、仕方ねぇな」


そう言うと吏仁は、私を床に座らせ、そして大きな体で私を優しく包み込んだ。


「ほら、泣け」
「そ、そんな簡単に言わないでよ!」
「泣きたいって言っただろが」
「そう…そうだけど!」


だからって、泣けってヒドイ!泣けって言われると、泣きたくても涙も止まっちゃうよ!


「なぁ」
「なによ」
「ソイツのどこが好きだったんだ?」
「え…?」
「優しかったのか?一緒にいて楽しかったのか?」


ふざけてても、吏仁はスッと私の心に触れてくる。亮太のどこが好きだったのか…。


「優しかった、よ…。一緒にいて楽しかった…。多少亭主関白気味なところはあったけど、亮太の為なら苦じゃなかった」
「ふぅん」
「買い物だって付き合ってくれたし、愚痴も嫌な顔ひとつせず聞いてくれて、私の作った料理は全部美味しいって食べてくれて」
「へぇ〜」
「私は楽しかったよ…。でも、亮太は楽しくなかったのかな」


亮太はいつから、考えてたのかな。私から離れることを…。亮太は私のこと、いつから好きじゃなくなったのかな…。


「そんなことないんじゃねぇの?」
「え…?」
「楽しかったんじゃねぇの?ただ、途中から歯車が狂っちまっただけだろ」
「歯車……」


ちょっとした歯車が原因で、亮太の心が離れていってしまったの…。亮太はもう、戻ってはこないんだ…。


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