知らない貴方と、蜜月旅行
蒼井という男は、ムッタリとした顔でチッと舌打ちをすると、私から視線を逸らした。


「あのね、答えたくないならいいんだけど、名前聞いてもいい?」


陽悟という男は、やっぱり優しく私に質問してくれた。寝床を与えてくれた相手に名を名乗るのは当然のことだろう、と陽悟っていう男のほうを見た。(寝床を与えてくれたのは、蒼井って人のほうだけどさ…)


「佐野…です」
「佐野、なにチャン?あ、嫌ならいいんだけど」
「……」


これは、どうするべきか…。でも、聞かれてるんだから言ったほうがいいんだよね…?でも、あまり名前言いたくないんだけどな。


「えとっーー」
「陽悟、名前なんかいいだろうが」
「えー、なんでですかぁ〜」
「もう聞いただろが」
「それは、そうですけど…でも俺はっーー」
「あー、うっせぇな。こいつの顔見て、わかんねぇのかよ。どう見たって言いたくなさそうじゃねぇかよ」


え…。蒼井って人、私の表情(かお)見てたの…?ほんの一瞬で、見抜いたの…?わたしが言いたくないってことを…。


「あーあー。やっぱり、そうやって蒼井さんは、いいところ全部持ってくんだからなぁ」


陽悟という男は、床に転がると大の字になり、ため息をついた。


蒼井という男は「別に持ってってねぇよ」と言っていたけど〝やっぱり〟って言うくらいだから、周りをすごく見ている人なのかもしれない…と、思った。


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