アルチュール・ド・リッシモン

母ジャンヌ、幽閉さる

 1413年3月20日、病床にあったヘンリー4世はとうとう亡くなってしまう。
 その翌日、3月21日には、王子ハルがヘンリー5世として即位する。
 と同時に、名前だけ「王太后」となったジャンヌ・ド・ナヴァールは、王宮の端の塔に幽閉されてしまったのだった。

「母上が幽閉………」
 一度は兄のジャン5世に「あの女のことは忘れろ!」と言われたものの、その知らせをみみにすると、アルチュール・ド・リッシモンは顔をしかめた。
「それで、兄上はどうなさるのです?」
 その知らせを教えてくれた兄にアルチュールがそう尋ねると、彼は顔をしかめて視線を逸らした。
 綺麗な金色の巻き毛に、青く澄んだ切れ長の瞳。彫りの深く整った顔立ちに、高い鼻。そして、色白の肌。どれをとっても、兄ジャン5世の顔立ちは、母のものと酷似していた。ブルターニュ1の美少年とうたわれた青年は、亡きヘンリー4世を一目惚れさせるほどの美しさを母から受け継いでいたのである。
 アルチュールと弟リシャールは、亡き父に似て、四角いこわばった顔をしていたので、不機嫌そうな兄の表情を見る度に、母も今頃こんな表情をしているのだろうか、と思っていた。それを口にしてしまうと兄が益々不機嫌になると分かっていたので、決して口にはしなかったが。
「それより、パリの方が騒がしいと聞いておるが、大丈夫なのか?」
 アルチュールが何も言わずに兄を見ていると、彼の方からそう尋ねた。
「さぁ………。私はパリ市内よりサンジェルマン・アン・レーに居る方が多いもので………」
 その返事に、ジャン5世は苦笑した。
「お前はまだ、あの王太子妃についておるのか? 小姓じゃあるまいし、ほどほどにしておけ! パリから西に送られた、名だけの王太子妃など………」
「それはそうかもしれませんが、私もリシャールも共に育ったもので、放っておくのはしのびないのです。王太子殿下からも護衛を頼まれておりますし………」
「フン、あのマザコン王太子か!」
 ジャン5世は鼻で笑うと、そう言った。
「あ、兄上、それはさすがに………」
 これには大人しく二人のやりとりを見ていたリシャールも、苦笑しながらそう言った。
「何だ、リシャール? 事実であろうが? 妻をほうったらかしにして、母親の所に入り浸っておるのだからな!」
「で、ですが、兄上の奥方様は、そのイザボー王妃様のお嬢様なのではありませんか?」
 リシャールが気遣ってそう言うと、ちょうどその時、侍女を伴って、そのジャンヌ姫が中に入って来た。
 思わず緊張の面持ちになる、アルチュールとリシャール。
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