アルチュール・ド・リッシモン

フランスの大敗

 一方、フランス側では、主要な貴族たちが続々とアザンクールに集まってきていた。父、ジャン無畏公に強く止められたフィリップ・ド・ブルゴーニュ以外は。彼の二人の弟、ヌヴェール伯とブラバン公はしっかり参戦したが。
 たくさん貴族たちが集まってきたものの、100年戦争前期のベルトラン・デュ・ゲクランのような英雄はまだいなかったので、そのデュ・ゲクランと共に戦ったことのあるドルー伯シャルル1世が作戦を立案することとなった。
 その作戦は、クレシーやポワティエで、よく訓練されたイングランドの長弓兵に負けたので、その対策が主になっていた。
 そして、その結果、中央を大舞台で進み、そこが攻撃している間に重装騎兵が敵の背後に回り込む、という作戦になったのだった。しかも、ご丁寧に、重装騎兵の馬には鎧まで着せることになったのだった。
 実際フランス軍を動かしたのは、元帥ジャン2世ル・マングル、通称ブーシコーであったが、彼はしばらく動かず、様子を見ていたのだった。

「フン、微動だにせず、か……。仕方ない。こちらから仕掛けてみるか!」
 ヘンリー5世はそう呟くと、右手を軽く下に下ろした。
 その合図に従い、先頭の下馬騎士隊が弓の射程距離内であるアジャンクールの最も狭い場所まで前進した。
 要するに、フランス軍を誘い出そうということだったのである。

「進め! 重装騎兵はわき道を通って回り込め!」
 そのヘンリー5世の策に乗り、フランス軍はそう叫んで進み始めた。
 が、そこは狭い崖。しかも、横は川で、回り込める所など無く、行き場を見失った重装騎兵隊はその場で右往左往し始めたのだった。

「ふ……。馬鹿者共めが! 弓兵、射かけよ! 奴らを全部射抜いてしまえ!」
 フランス軍のうろたえようにヘンリー5世はほくそ笑むと、容赦なくそう命令を下した。
 その命令にすぐ傍にいた長弓兵が応えて矢を放つ。
 その傍では下馬騎士隊が地面に杭を打ち込んで、フランス軍の騎馬隊の突撃に備えたが、既にフランス軍はそれどころではなくなっていた。狭くて回り込めずにいた重装騎兵が下馬騎士隊と歩兵の進路を妨害し、そこに矢の雨が降ってきたので、混乱状態に陥り、自滅していったのである。
 イングランドの長弓兵に対抗するはずだった投射兵も、全く活躍しないまま潰走してしまっていた。
 この間、約1時間。名だたるフランス貴族が参戦した割には、あまりにもお粗末な結果だったといえる。 
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