強引同期と恋の駆け引き




「どこに文句がある。十年もお互いをみてきたんだ、これ以上の時間をかける必要はないだろうが」

「で、でも。北海道に行っちゃうんでしょ? 私、遠恋なんて自信ないし、こっちに戻ってくるまで待ってられるほど若くないの」

少なくとも五年は向こうだと聞いている。

「新幹線も開通したし、同じ国内だ。その気になれば日帰りだってできる。それに、おまえを待たせるつもりもない」

「でも、だって」

「俺は別に、一緒に向こうへ行っても構わないと思っているが」

「それは無理」

戸嶋さんと久野が抜ける新年度。そこへもって私までいなくなったら、課が大変なことになる。その程度には仕事を任されているという自負はあった。

即答した私に、気を害した様子もなく久野は「だろうな」と目を細める。

「だから俺が待つ。片倉の気がすむまで仕事して、納得できたら来い。異動でも退社でも、できる限りのサポートはするつもりだから」

「……なに、その上から目線」

しかも、ボロボロストッキングの擦りむけた膝小僧のままでプロポーズをされるなんて、夢もなにもあったもんじゃない。なのにどんどん目頭が熱くなる。

「それに拒否権はないぞ。おまえはビンゴの景品で、俺が手に入れたんだからな」

ついに零れだした涙を優しく親指で拭いながら、「ほら、返事」と催促されれば、諾と応えるしかなく。

首をコクンと縦に振ると、再び頤を捕まえられてそっと唇が重ねられる。

離れていく間際、「あんまり待たせるなよ。花嫁衣装の選択肢が狭まらないうちにしろ」と、憎まれ口を囁いていったのは照れ隠し?



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