逃げられるなんて思うなよ?
「いいじゃないの、1分くらい!」


私は思わず怒鳴り返した。
すると斗季生が「ああん?」と不機嫌に顔をしかめる。


「なに甘ったれたこと言ってんだよ?
1分だろうが一時間だろうが、遅刻は遅刻だ。
お前だって仮にも社会人なんだから、それくらい分かってんだろ?」


まったく、こいつときたら、へたな上司よりも厳しいのだ。
こんな血も涙もない男には、どうせどんな言い訳を言ったって通じない。


「……遅れてすみませんでした。以後、気を付けます」


殊勝に頭を垂れた私に、斗季生は嬉しそうに「初遅刻だな、日高水穂」とトドメを刺した。


あーあ、最悪。
今まで無遅刻無欠席だったのに……。


「オラオラ、しょんぼりしてる暇があったらさっさと仕事しろ!
遅刻した上にサボる気か?」


意気消沈している私に、斗季生は容赦なく冷たい言葉を浴びせかける。

私は「そんなわけないでしょ!」と斗季生を睨み返した。


「口だけなら何とでも言えるからな。
行動で示せ、遅刻女」

「うるさい、バカ!」


捨て台詞を投げつけて、私は小走りで自分の職場に向かった。
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