金曜日の恋奏曲(ラプソディ)




あくまで優しい、包み込むような瞳に、ささくれだった心が癒されていく。



少し沁みるような痛みを伴って、でも確実に修復されていく。



りっちゃんと里見先生が言ってる事は、違うところもあれば、同じところもある。




…そうだ。



私がりっちゃんに言われたことを否定してたのは、本当の私がそれに気付いてたから。



でも、最後は反論出来なかったのも、本当の私が最初から、気付いてたから。



私が本当は、どうしたいかを。



簡単だ。難しくなんてなかった。




ただ、自分でも本当は分かっているそのことに自信がなくて、ただ、誰かに一言認めてもらいたくて。




蓋をしないで、隠さないで、塗りつぶさないで。




本当の気持ち、見つけて。




自分に嘘をつかないように。




嘘をついたら、後で絶対後悔するって、それだけははっきりと分かる。



「…あ…私…。」



手が、目に見えて震えていた。



私前に怖がってちゃ何も始まらないって気付いたんだ。



けど今もまだ私は臆病者。





…でも、それでいい?




今はまだこんな私だけど、今またもう1度気付いたから、今からもう1度やってみる、それでいいの?






だったら私は













…須藤くんに会いたい。









私は勢いよく立ち上がった。




里見先生は驚く様子もなく、私を見る。




心臓がバクバクと高鳴り始める。




早くしなきゃって、急かす音。




…こうしちゃいられない。



「里見先生、ありがとうございました…っ!」



た、の時にはもう、走り始めていた。



「…間に合うといいけど。」



里見先生が小さく、そう呟いたのがかろうじて見えた。



私は一目散に廊下を駆ける。




…私の人生だから、私の好きなように生きればいい。



けど、周りだから見えることだって、絶対ある。



りっちゃんだから分かること。同じ目線で見て言ってくれること。



りっちゃんの言葉だから、納得出来ること。



里見先生だから分かること。人生の先輩として私にアドバイスしてくれること。



里見先生の言葉だから、納得出来ること。




そして、私が、私自身のことだから分かること。




自分自身が見つけたから、納得出来ること。




周りの声に耳は傾けつつ、その時自分が後悔しない道を生きてみればいい。






…怖い、怖いよ。



りっちゃんの声が聞こえる。



…でも、背中を押してくれるから、勇気を出して頑張るの!頑張れるの!




…私だって、そうだ。



怖い、でも、私は須藤くんに会いたい。



今会わなきゃ絶対、後悔する。



廊下はさっきまでより薄暗く、濡れたような夕焼けの光がのっぺりと張り付いている。



でも、私の見える世界は、霧が晴れたようにクリアで。



会わなきゃ会わなきゃ私が知ってる須藤くんに会わなきゃ少しでもいい行かなくちゃ。



それだけが脳内を巡る。



私の全部が、もっと早く走れって言う。



タイムリミットが近い。



…テスト前だし、早い時ならもう帰ってる時間だ。




冷静な視点の声がどこかで聞こえるけど、足を動かすのはそんなんじゃない。




ただ、本能。





息が切れる。





階段を駆け上がる。





肺が押しつぶされたように苦しい。





酸素が頭に回らなくなってきた。





でも、スピードを下げることはない。







…まるで須藤くんと初めて話したあの日みたいに。










お願い…いて。



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