金曜日の恋奏曲(ラプソディ)
言い終わってから、しまった、と思った。
…これは、本気でウザすぎる。
重いし、何でもない人に言われてもただ鬱陶しいだけだ。
...絶対、引かれてる。
しかし、時すでに遅し。
後悔しても、言ってしまったことはどうにもならない。
頬を、嫌な汗が伝った。
深く下を向いたまま、顔を上げることが出来ない。
どうしよう。
黙っている須藤くんが、怖い。
沈黙が、ゆっくりと私の喉元を締め付けていくようだ。
こんなの、絶対嫌われた...。
見つめる茶色のローファーがぼやけかけた時、須藤くんが言った。
「...ごめん。俺、女心とかそういうの、よく分からなくて。
嫌な気分にさせてたなら、ごめん。」
...ちがう。
私の心の中で声がこだました。
須藤くんが、謝るようなことじゃないのに。
でも、言葉にならない。
焦る。
早く否定しなきゃ、否定しなきゃいけない。
なのに、喉の蓋が、隙間無く閉まっている。
以前より、強く。
焦る。
苦しい。
目頭に、熱が集まってくる。
...なにこれ。
なんで、前より話せるようになってたと思ったのに、なんで。
湿った紙にインクが1滴こぼれ落ちたように、ジワリと何かが私の胸を染めながら、広がって、飲み込んでいこうとする。
...なんでこんなに、歯がゆくて、こんなに、苦しい
「...長谷川さん!」
須藤くんに腕を掴まれて、私はハッと顔を上げた。
ハァハァと、息が上がっていた。
今にもこぼれそうなくらい、目も涙がいっぱい。
足に、力が入らない。
私の腕を掴んだままのぞき込んでいる須藤くんの顔には、動揺の色が浮かんでいた。
「...ご、ごめんなさい。」
私は咄嗟にそう言って、須藤くんから手を離してもらおうとする。
でも、須藤くんは離さなかった。
きつく強引に握っていたわけじゃない。
だから、本気で振りほどこうとすれば、出来た。
でも、そうしなかったのは、須藤くんの離そうとしなかった意志に、気付いてしまったから。
須藤くんの目が、真っ直ぐに私を見つめている。
何も言わずに、しばらくそのまま突っ立っていた。
私はゆっくりと呼吸が戻っていくのが分かって、安心感に包まれた。
そんな私を見て、須藤くんが、少し息を吐く。
「...ちょっと休憩していこう。」
須藤くんの、有無を言わさない瞳に、私は、こくんと頷いた。