あなたと恋の始め方②【シリーズ全完結】

私を包む現実

 夢のようだった週末が嘘のように私は忙しさに包まれていた。元々、月曜日の朝は憂鬱になるくらいの量の書類が机の上に並ぶ。どれもこれも、土日の休みの時間に中垣先輩が趣味である研究に没頭したせい。分かっているけど、今日の量は半端ではない。


 私は研究室に入るなり、自分の境遇を察知し、溜め息を零しそうになる。これが私の現実。静かな中にパソコンのキーボードの上を踊る指が音を掻き鳴らす。


「坂上。パソコンの打ち込みが終わったらこっちにデータ送って。俺の打ち込んだデータと照らし合わせて検証する」


 窓の外に見える中庭は明るい日差しに包まれている。真っ白な研究所は眩しい光に反射して目を瞑ってしまうほど。それなのに私は牢に囚われたかのようにブラインドの隙間からしか外を覗くことは出来ない。ふと思い出すのは小林さんのことだった。


 金曜日よりももっと好きになっていた。恋というのはこんなにも加速度を増すものなのだろうか?ふと、気を抜くと小林さんでいっぱいになってしまう。


「手が止まっている。午前中にさっきのファイルまで終わらせろ」


「はい」


 小林さんのことを少し思い出していた私に中垣先輩は容赦なく、簡単に現実に戻してくれる。膨大な量のデータを打ち込み終わると息が漏れる。いくつもの結果を検証することで得られる数字を期待していたけど、どうも私の予想とも中垣先輩との予想とも違っているようだった。
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