あなたと恋の始め方②【シリーズ全完結】

優しい時間に

 これは私の思い描いた都合のいい夢かもしれないと思うくらいに嬉しくて、一度キュッと目を閉じて開くと、そこには私を見つめる小林さんの瞳がある。真っ直ぐな瞳から目を背けることが出来ないくらい真剣で…ドキドキが加速する。そんな私に追い打ちをかけるように小林さんの腕が私を包み優しく抱き寄せた。そして、耳元に囁かれたのは少し自身の無さ気の言葉だった。


「断られなくてよかった」


 好きな人に好きだと思われることがこんなにも幸せなのだと思った。小林さんはとっても素敵な人だし、とってもモテるのも知っている。だから、私でいいのかと心配になる。


「断りませんが、本当に私でいいですか?」


「美羽ちゃんがいい。一緒に居たい」


「私も小林さんと一緒がいいです」


 小林さんはもう一度私の身体をキュッと抱きしめた。そして、少し腕の力を緩め怪訝な顔をする。



「少し痩せた?俺の気のせい?」

「少しだけ」

「それってダイエットとかじゃないよね」


 そう言われて私は自分の胃の方に無意識に手を添えていた。私を見つめる瞳はさっきの甘さを払拭し、私には逃げ場をくれない。私がフランス留学と小林さんのことで本気で悩み、食事も喉を通らなくなっていたことに小林さんは気付いていた。

< 130 / 498 >

この作品をシェア

pagetop