あなたと恋の始め方②【シリーズ全完結】

疑似新婚生活

 フランス研究所に配属されるまでの間、私は小林さんのマンションにお世話になることになっている。少しの時間しかないけど、一緒に居る間は少しでも小林さんのために何かしたいと思う。料理も掃除も嫌いじゃない。かといって、それが得意というほどでもない。


 小林さんとの間に残された日は週末までのたった四日間。私は何が出来るのだろうか?


 そんなことを考えながら私は歩いていると、小林さんのマンションの前まで帰ってきていた。バッグから鍵を取り出すと、オートロックを抜けてから小林さんの部屋に向かう。このマンションは働いている人が多く住んでいるのか、今の時間はとっても静かだった。小林さんと一緒に帰ってくる深夜といってもいい時間の方がよく人とすれ違う。


 マンションに花束と大量の紙袋を持って入って行っても誰にも会わない。それがいつもと違う時間なのだと教えてくれる。


「慣れないなぁ」


 そんな言葉を呟きながら自分のバッグから鍵を取り出し、小林さんの部屋の鍵を開ける。鍵を開けるたびに今でもドキドキしてしまう。今までも何回か自分だけで開けたことはあるのに、なんだか慣れない。ドキドキしてしまう。


 鍵を開けるとパッと廊下の電気が点いて…。部屋の奥まで見える。


 当たり前だけど、小林さんは居ない。


「ただいま」


 後ろ手で鍵を締めると、私は靴を並べてからリビングに向かう。そこには朝から変わらない光景が広がっていた。

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