あなたと恋の始め方②【シリーズ全完結】

親友と呼べる人

 小林さんのフランスでの研修は会社の規定の外国の歴史に触れるということは充分に果たしたと思う。有名な観光地ばかりではなく、積極的に見て回ったのは地元の人々が溢れるところばかりで、現地の人の生活を身近に感じることにより、ただ、観光地を回るだけとは違う意義があったように思える。


 研究所で開発する商品も、それを販売する支社も生活の中での需要がどのようなものであるかというマーケティングが大事で、日本でのヒット商品だからと言って、それがフランスでも売れるかというとそうではない。日本とは違う歴史や文化に触れることにより、よりグローバル化した環境に適応できるような経験を積ませるというのは今回の研修の主旨だった。


 殆どの人が有名な観光地を巡る。それも歴史と文化に触れることは出来る。でも、小林さんはその一歩前を進んでいた。高見主任も折戸さんも今回の研修は私の事も加味してのことだというのは分かっている。でも、それに甘えることなく、小林さんは前に進む。


 数字ばかりを追い求める研究職では自分の開発に関わった商品がどのようになっているのかを知ることが出来て私もよかったと思った。


 研究を離れたのは数日。小林さんが日本に帰国した後、すぐに研究に戻った。頑張ろうと思うのも、どうにかして成果を上げたいと貪欲に研究に身が入るのも小林さんの真摯な姿勢に刺激されたからだった。


 私は研究所を留守にしていた間に、キャルの進めてくれた資料を見ながら、自分の仮説を書いたレポートを捲る。


「美羽の研究への意気込みは凄い。婚約者の彼が日本に帰ってからの美羽の研究に対する意気込みには圧倒される。でも、これならいい形で終われるかもしれないわ。研究を中途半端に残したままで、結婚しないといけないかもしれないことを残念に思っていたの」
< 433 / 498 >

この作品をシェア

pagetop