俺様御曹司と蜜恋契約

 「取引は終わりだ」





それからしばらくして森堂商店街の再開発計画が再び白紙に戻された。

それと同時に朝からワイドショーで世間を騒がせているのは、日本を代表する大手流通会社『葉山グループ』の突然の社長交代のニュースだった。


「ーー花。2品できたぞ」

土曜日の今日は母親が親戚の結婚式へ出席しているため出掛けていて、私が代わりに食堂の仕事を手伝っている。

お昼時の店内はテーブル席は全て埋まっていてカウンター席も半分が埋まっていた。

「おい花。二品できたぞ」

「あっ、はい」

厨房から聞こえる父親の声に返事をして料理を取りに向かう。それをテーブル席に座るお客さんたちへと運んだ。

「お待たせしました。生姜焼き定食と親子丼になります」

食堂に置いてあるテレビではお昼のワイドショー番組が流れていて、さっきからそこに目がいってしまう。そこでは、昨夜、葉山グループの本社ビルで開かれた社長交代についての会見を取り上げていた。

会見場には3人の人物が出席していて、中央に座っているのが葉山社長の祖父で葉山グループ現会長。その脇に控えているのが葉山社長と、新しく社長に就任する葉山社長の叔父さんの葉山光秀。

番組は記者会見の映像を流しながらコメンテーターたちが話を繰り広げている。

『葉山グループといえばショッピングセンターや食品スーパーなどを国内に多く出店している大企業ですよね。一族経営としても有名で代々本家の長男が後を継ぐそうですが』

『ええ。昨年の春に当時の社長が急遽したので息子である光臣氏が後を継いで社長に就任しています。まだ若いながらも彼が社長になってからは葉山グループの売り上げは右肩上がりで伸びていたんですが』

『ではなぜ就任わずか1年で社長が交代になったのでしょうか』

『それについては今回の記者会見でも詳しいことは発表されていませんね。光臣氏が自ら社長を降りたという噂もありますが…』

テレビ画面を見つめながら、手が自然とエプロンのポケットへと向かう。そこに忍ばせているスマホの画面を確認してから小さくため息をこぼした。

あれから葉山社長からの連絡がない。

「――花。一品できたぞ」

「はい」

父親の声が聞こえて視線をテレビから反らすと慌てて厨房へと向かった。

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