俺様御曹司と蜜恋契約
「葉山社長、三崎書店のこと知っているんですか?」

「いや、別に……」

現在の三崎書店は看板も出ていなければシャッターも降りているただの空き家で、その見た目だけではそこがかつて古書店だったとは気が付かない。

それなのにどうして葉山社長は書店だと気が付いたのか気になってたずねてみたのだけれど、歯切れの悪い返事が返ってくる。

もしかして来たことあったのかな…?

不思議に思いつつもそれ以上は聞かないことにした。

「おやすみなさい」

そう告げて再び彼に背を向けて歩き出す。しかし。


「―――花」


また声を掛けられて呼び止められてしまう。

「今度は何ですか?」

「ちょっと来て」

葉山社長が手招きをしている。

私はため息をこぼしつつも来た道を戻った。

「もっとこっち来て」

さらに近くへ来いと言われる。

なんだろうと思い近付けば、ふいに手首を掴まれぐっと引き寄せられた。

そして目の前には葉山社長の顔があって、唇に生温かな感触が…。


「……!」


葉山社長の唇が私のそれに押し付けられていた。

ちゅっという音をたてて離れていくと、葉山社長が口の端を持ち上げて笑う。

「お別れのチュー」

掴んでいた私の手首を離すと「また明日な」と運転席へ乗り込んだ。

そのまま葉山社長の派手な黄色の車は暗闇の中へと消えていった。



< 50 / 197 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop