COLORS
COLORS



幼さを残す、無垢も、


さまよう、衝動も、


穏やかに包む、強さも、


大人びた、覚悟も、





褪せない、色。







COLORS







1st 前原すみれ





「相変わらず、うちに来るんだね、良は」





私は、自室のベッドに凭れながら、マニキュアを塗ったばかりの爪に、ふっと息を吹きかける。





「ガキの頃からの習慣。すみれの家、うるさい親もいないしな」





良は、その下に座り込み、でたらめにギターを掻き鳴らす。





「ふーん……」







幼馴染み。







私が、マニキュアを塗るようになったのは、いつだったか、



良が、ギターを弾くようになったのは、いつだったか、



それすら思い出せないほど長い時間を、一緒に過ごしている。



物心ついた頃から、小学生の時も、中学生の時も、そして今、高校三年生になっても、



相変わらず、



学校から解放された午後の茫漠とした時間を、二人で過ごしている。





「彼女はどうしたの? かまってあげなくていいの?」



「別れた」



「また!?」





緩んだ室内に、マニキュアの香りと、尖った音が、こもる。





「高校入ってから何人目? 良って、そんなチャラかったっけ?」



「食っても食っても、足らないからだよ」



「足らないって、どういう意味?」



「本当に想ってる奴には、届かないってこと」





咎める者は、いない。





見栄を張って一戸建てを購入した両親は、それを維持するため、夜まで働く。





「へぇ……本命、いるんだ」



「俺、こう見えて、一途だからさ。もう何年も想い続けてる奴がいるんだよ」



「だったら、どうして、その子とつき合わないの?」



「……そうだな」





緩んだ空気を切り裂くように響いたギターの、苛立つリフに、びくりと身体が応える。





「つき合えたら、いいよな……」





それまで穏やかだった、良の雰囲気が、一転したことに、気づいた時には、もう遅い。





「良……?」





夜まで働く両親は、まだ帰ってこない。





そう、咎める者は、いない。





「何……やめて、良!!」





いつの間にか、上にずしりとのしかかっている重みは、私を、さらにベッドに沈めていく。





嫌だ嫌だともがくほど、がしりと押さえつけられ、逃げられない。





制服のリボンを乱暴に落としながら、





「……でも、俺、どうしていいかわからないんだよ……」





弱々しく吐く口調が、狡くて、





「だからって、私まで捌け口にしないでよ!!」





そう叫んだ瞬間、





泣きたくなった。





「……こんなの嫌だよ」





そして、ぼろぼろと涙を零しながら、





泣いて、鳴いた。





「すみれ……」





私は、いつから、マニキュアを塗るようになったのか、



良は、いつから、ギターを弾くようになったのか、



そして、私たちは、いつの間に、一線を越えていたのだろうか……





窓の外には、朱い夕暮れ、



ベッドの下には、紅いリボン、



泣きじゃくった目は、赤く腫れている。







幼馴染み。







長年の均衡が一瞬にして崩れ去る様は、呆気なくて虚しくて、





笑いたくなった。





笑いたいのに……





また、ぼろぼろと、





泣いていた。





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