陽のあたる場所へ


「いずみちゃん…頑張ろ」

沙織は、吉沢の肩にもたれて歩くいずみの肩に手を置きながら、一緒に店の外に出た。


火照った頬に、いきなり冷たい風が当たり、沙織は思わず首に巻いたマフラーの中に、顎を埋めた。



頑張ろ…って、何をだ…

龍司に恋人が居るだろうとは思っていたが、その実体が現実的になった以上、もう残された道は一つだ。
いずみも、自分も、辛い気持ちを抑えて諦めるしかない。

毎日のように顔を合わせる関係なので、それは容易ではないだろう…

でも、それしか方法はない。
きっとこの先も、いずみを通して、恋人との進展具合も聞かされる羽目になるのだろう。
こうなれば、いずみとは同志のようなものだ。
共に、彼を好きだという気持ちが消え去るまで、ひたすら耐えるしかない。



「じゃ、俺達、こっち方面なんで。先輩、気をつけて帰って下さいよ」

「うん、ありがとう。いずみちゃん、よろしくね」

「せんぱ~い、おやすみなさい」

いずみはフラフラしながら、沙織に手を振って笑って見せた。


あ~あ…大丈夫かなぁ。
少し不安になるが、いずみには、自分の気持ちを包み隠さず吐き出せる相手がいる。

そして、信頼できる異性の友人がいるということは、とても心強いと思う。

覚束ない足取りのいずみの肩をしっかり支えて歩く、吉沢の大きな背中を黙って見送る。

ほんの一瞬…、その後ろ姿が、自分と亮の姿に重なって見えた。
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