絶対値のゆくえ
隣に君がいないまま、その日の授業を終えた。
放課後になり、保健室へ向かうと、ふてくされた顔でベッドに寝転ぶ君がいた。
「どう?」
「もう治った」
「うそ。早く帰ってゆっくり寝なよ」
そう伝えても、君は首を振る。
放課後、君が先生に分からなかった問題を聞いたり、アドバイスをもらったりしていることを、私は知っている。
「……だって。ちょっと面白くなってきた」
「何が?」
「勉強」
「え?」
「社会なんて暗記科目だと思ってたけど、時代の流れとか歴史上の事件の理由とかやっとわかってきて」
「うん?」
「数学もルールを覚えれば、解けなかった問題もいろんな角度から攻略できるっていうか」
「あー……」
急に思ってもいないことを言われ、驚いてしまう。
でも、なんだか嬉しかった。
カーテンの隙間から、夕日のオレンジ色が室内に差し込む。
ちょうどその光が線になって、君と私をつなぐように照らしていた。
「あと単純にできる問題が増えてるのが、嬉しい」
いつの間にか、君はこの部屋の天井じゃなくて、もっと遠いところを見ていた。